• テキストサイズ

暗闇の蕾【文豪ストレイドッグス】

第12章 DEAD APPLE


●●●


太宰との対峙後、坂口安吾は事件の根源的な解決をしようと尽力していた。だからこそ、霧に巻き込まれないよう避難し、ヨコハマが霧に覆われてからは、ずっと霧の内部と連絡を取れないかと通信し続けていたのだ。

無数のモニターが目まぐるしく動き、背広を着た多くの人間が画面や机に向かう。慌ただしい声とコンピュータを操作する音が重なる。ーー異能特務課。
その指令席で、安吾は立ち上がる。先程まで繋がっていた武装探偵社、国木田独歩、萩原葉琉との通信は切れてしまった。再び通信が繋がることを祈るのは徒労だろう。幸い、葉琉の端末に此処の場所を示した地図は送れた。彼女は必ず来てくれる。
安吾は職員に問いかけた。

「異能者ナンバーA5158の居場所は掴んでいますか?」

「はい」

「メッセージをお願いします」

「なんと伝えますか?」

霧に包まれたヨコハマの画像を見ながら、安吾は言葉を紡ぐ。もはや、猶予はない。思いつめた声で告げた。

「……葉月さんの居場所は掴んでいます。教授眼鏡に借りを返せ、です」



●●●



ヨコハマのとある路地裏。真っ白な霧の中に浮かぶのは特徴的な黒帽子を被った青年。中原中也は異能力を遣い、上手く霧との接触を防いでいた。

「チッ……繋がりやしねぇ」

何度か通信を試みた端末をポケットに仕舞い、辺りを見渡す。暫く様子をみて歩いてみたが、普段は夜でも人通りのある繁華街も、螺子が切れた玩具の様に静かだった。死体がある訳でもない。人が居ないのだ。
不意に、葉月が言っていた首領からの指令を思い出す。

ーー「不測の事態に陥った時、中也君、君の判断に任せる」

ふっと笑い「不測の事態……ねぇ」と繰り返す。今がまさにその時だろう。澁澤を攻めに行こうが、それは"自分の判断"だ。
そう思い、脚を進めようとした時、先刻まで反応が無かった端末が震えだす。中也は画面を確認し、眉を顰め、端末を耳に中てた。
/ 280ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp