第12章 DEAD APPLE
店の外へ出ると、夜風が太宰の肌を撫でた。腕の中にいる葉月を確認し、直ぐに視線を上げて足を踏み出す。
「太宰君」
太宰の背に、無機質な声がかけられた。かつて、太宰や織田作と肩を並べて笑っていた青年。マフィアに潜入していた、異能特務課の一人。坂口安吾。
「ああ安吾、いたの?」
振り返らないまま、太宰が問いかける。
「飲みに来たのかい」
「いいえ、仕事中ですから」
「仕事?」
「これです」
安吾の言葉が合図の様に、黒い特殊部隊の小隊が十数人、気配も音もなく現れた。消音装置つきの短機関銃の群れが、正確に太宰の心臓を狙っている。
「澁澤龍彦をこのヨコハマに呼び戻したのは、貴方ですね?」
「……」
「葉琉さんをどうする心算ですか?」
問われた言葉に、太宰はゆっくり振り返り、冷たい眼差しで安吾を射抜いた。その姿に安吾は「……葉月さん…?」と呟く。太宰に抱えられているのは、同じ顔、同じ背丈だが、服装から姉の葉月と訂正したのだ。
太宰の仕草はひどく悠然としている。取るに足らない塵芥を相手にするような太宰の視線。それを受けながらも、安吾は緊張の滲む声で問い詰める。
「このヨコハマで、異能者の大量自殺を生む心算ですか?」
瞬間、太宰の纏う空気が一変した。
「私を捕らえられると思っているのかいーー?」
「!」
得体の知れない絶対的な恐怖に、安吾の背筋が凍りつく。酷薄な笑みは、安吾の見たことがない類いのものだ。
こんな太宰は知らない。ーーそう思った時にはすでに遅い。
安吾の背後から、不吉な白い霧がにじり寄っていた。