第12章 DEAD APPLE
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片付けを終えた葉月は自分の仕事部屋でもある、中也の執務室へ戻った。
ノックし扉を開けると、既に中也は戻ってきていた。
「会議、お疲れ様でした」
「あぁ」
とても機嫌が悪い。それもそうだろう。澁澤龍彦は六年前の抗争で、中也の仲間達を死に至らしめた張本人だ。今にでも飛び出して、澁澤の殲滅を行いたい処だろう。しかし、首領からの指令は事実上の待機。中也の心労は募る一方だった。
葉月は自分の机に資料を戻し、中也の元へ歩み寄る。
「中也、今回の首領の指令、まだ続きがあります」
「あ?続きだ?」
「『不測の事態に陥った時、中也君、君の判断に任せる』と」
「俺の判断?」
一瞬、驚いた表情を浮かべた中也だが、直ぐ目を伏せて「判った」と応えた。
葉月は中也の背後に回り、頸に腕を回す様に抱きしめた。
「何だ」
「何でもない。理由…いる?」
「否、いらねぇ」
先刻まで張り詰めていた中也の表情は心成しか和らいだ。
「……心配掛けたな。もう、大丈夫だ」
「うん」
葉月はゆっくりと離れた。その時、中也の頸に冷たい感触が伝わる。頸元を確認すると葉月が離れ際に、中也の頸にネックレスを着けたのだ。
中也は胸元へ垂れる何かを手に取る。それは筒状のシンプルなデザインのネックレスだった。そのネックレスを着けた人物へ振り返ると、葉月はにっこりと笑って自分の頸に有る鎖を親指で引っ張る。
「お揃い」
葉月の頸にも同じデザインのネックレスが着いていた。中也は自分のネックレスに視線を戻すと、ふっと鼻で笑った。
「え、鼻で笑う処!?もっと喜ぶ処でしょ」
ぷうっと頰を膨らます葉月に「はいはい、有難う」と応える。
「なんなら、私だと思ってくれていいよ」
「葉月が此処にいるのに代わりなんて必要ねェよ」
中也は立ち上がり扉まで移動する。
「俺も出る。葉月も引き続き調査を続けろ」
「判りました」
其の儘中也は執務室を出て行った。
ポケットにある、葉月の端末が震えた。