第12章 DEAD APPLE
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ーー六年前ーー
ヨコハマ史上、最も死体が生産された八八日。
あらゆる組織を巻き込んで吹き荒れた血嵐、龍頭抗争。
その終結前夜。
葉月と葉琉は指定されたビルの屋上に立っていた。ビルの下には彼方此方に死体の山が積み上がっている。
「酷い臭い。薬莢と血の臭いね」
「新人をこんな最前線に立たすなんて、マフィアも人手不足なのかな?」
イヤホンから雑音と共に上司、中原中也の声とエンジンの轟音が聞こえる。
『無駄口叩いてる暇なんか無ぇよ、双子!黙って準備しとけ!』
続け様に『引っ込んでろ、サンピン!』と音声が入る。その次に聞こえたのは今回のお姫様、捕まっている太宰治の声だ。
『ハーイ、中也。敵の射程距離に入ったから、弾受けて死んでね』
『うるせえ!』
少し離れた処で爆発が見えた。
「派手だねぇ」
「そうね」
『おや、その声は双子ちゃんかな?』
「ご無事で何よりです、太宰さん」
二つ目の爆発を眺め乍、葉月は太宰に返事を返す。
『成る程ね、君達が居れば私の脱出は容易だ。合図を送るよ』
「宜しくお願い致します」
三つ目の爆発が見える。そして、次に見えたのは稲妻だ。中也が居るであろう場所に稲妻が走っている。
『聞こえるかい?織田作。君の居る近くのビルに私の双子ちゃんが待機している。この後、彼女達は動けなくなる。回収を頼みたい』
『ーー判った』
「お世話になります、織田作さん」
『誰が手前の双子だ!』
中也の声と共にタイヤと地面が擦れる耳障りな音が聞こえた。程なくして少し離れたビルの屋上で小さい爆発が見えた。
「ありゃりゃ。中也の恋人ご臨終だね」
『中也の恋人…ぐふッ』
ツボに入ったのか、太宰の抑えきれなかった声が漏れ出す。
『手前等、ぶっ殺すぞ』
「おーこわっ」
不機嫌そうな中也の声に戯けて応える葉琉。直ぐに太宰からの指示が入った。
『葉月ちゃん、葉琉ちゃん。初めての実戦だ。五秒いってみようか』
「「はい」」
二人は手を繋ぎ目を閉じた。
「「過去より来りて未来を過ぎ久遠の郷愁を追ひくもの。
いかなれば滄爾として時計の如くに憂い歩むぞ」」
二人を中心に凄まじい速さで冷気が広がっていく。『五分遅刻だ』という太宰の声が聞こえ、爆破された中也の単車から上がる煙がぴたりと止まった。