第12章 DEAD APPLE
机の上に放られていた中也の拳に力が込められたのと同時に、拳辺りの机が陥没したのだ。
「これ、中也」
「……」
紅葉に止められそれ以上の物理的な被害は免れたが、中也の拳には未だに力が込められている。芥川と樋口は緊迫した空気で身動き一つ取れない。その緊張を破る様に葉月が話を続けた。
「尾崎幹部と中也さんはご存知かと思われますが、澁澤龍彦。六年前の龍頭抗争の時、抗争の拡大を計った男です。彼がこのヨコハマに潜入しているという情報を掴みました」
「確かに其奴が関わっているとなると先刻の変死体も納得じゃ」
「其奴が異能者を自殺に追い込むと…?」
「違ェよ」
芥川の疑問に中也は唸る様な声で答えた。
「自分の異能に殺されンだ」
「……」
驚きで目を見張る芥川と樋口。中也は視線を葉月に戻した。
「首領からの命令っつうのは、其奴の始末か?」
「否…」
「それは違う」
別の声に全員の視線が扉に向かう。其処に立っていたのはポートマフィア首領、森鴎外だった。紅葉を除く全員が立ち上がり、一礼をする。その光景に満足したのか「座りなさい」と声を掛ける。
「首領、"違う"と云うのは?」
着席した首領に中也が尋ねる。
「先ずはウチからの被害を最小限にする事だよ、中也君。未だ此方から攻め入る心算はない」
「鴎外殿、主が何時も申していたではないか。"常に先手を打つ"と。これがその"先手"かえ?」
紅葉の質問に答えず、顔の前で手を組んだ儘薄い笑みを浮かべている首領。紅葉も諦めた様に溜息を吐いた。