第11章 【SS】海辺の休日
沢山あった手持ち花火も粗方消化し、葉月と葉琉は噴射花火と打ち上げ花火の準備をしていた。
その様子を眺め乍、中也は少し離れた処で煙草に火をつけた。
「一本おくれよ」
手を出す太宰に「手前にやるモンなんてねぇよ」と返す。
「昼時に情報提供をしてあげたのは私だよ?」
「……チッ」
中也は箱から煙草を取り出し、太宰に渡す。火種を要求される前にライターも押し付けた。
「相変わらず趣味の悪いモノ吸ってるね」
「煩ェ、文句あンなら吸うな」
ふぅと煙を吐く太宰の視界にも、楽しそうに花火の準備をする二人の姿を捉えていた。
「ねぇ、中也」
「あ?」
「世界か葉月ちゃんなら何方を助ける?」
「何だいきなり」
「いやね、少し気になったのだよ」
中也は少し考え、携帯灰皿に灰を落とし「両方だ」と答える。太宰は目をパチクリさせて中也を見た。
「何だよ」
「……否、成る程、と思ってね。私には出来ない選択だよ。私は、迷わず葉琉を選ぶだろう。こんな世界、どうなったって構わないとね」
「今に始まった事じゃアねぇが、矢っ張手前とは意見が合わねぇな」
「その様だね」
中也は視線だけ太宰に向け、携帯灰皿を差し出す。
「灰」
「あぁ、済まないね」
長くなり落ちかけていた灰を太宰は携帯灰皿に落とした。
「葉月に後何れだけの時間が残ってるか知らねぇが、彼奴が生きている以上、彼奴の世界を壊す訳にはいかねぇ。まァ、俺も彼奴の事言えねぇがな。俺にも彼奴にも、立ち止まってる余裕は無ェよ」
太宰は黙って葉月達の方を見ていた。何を考えてるかは中也も判らない。唯、何かを考えている事は判った。
「打ち上げるよ〜」
花火の準備が整ったのか、葉琉が大きく手を振っている。太宰はそれに応える様に手を振り、煙草を携帯灰皿に捨てて中也に渡した。中也がそれを黙って受け取ると太宰は葉月達の方はゆっくりと歩き出す。中也も吸っていた煙草を捨てて太宰の後に続いた。
火をつけて走って戻ってくる葉月と葉琉は中也と太宰の横に立つ。直ぐに数個ある噴射花火が順番に火花を散らし始めた。そして、打ち上げ花火も上がる。
「ね、花火購って良かったでしょ?」
中也は花火を眺め乍、優しく葉月の頭を撫でた。