第11章 【SS】海辺の休日
中也が次の花火に手を伸ばした時だった。
「やぁ、お二人さん。奇遇だねえ」
中也と葉月は声のする方へ振り返る。其処にはにこにこと手を振る太宰と、「付いて来ちゃった」と中也に謝る葉琉がいた。
「何で手前もいるんだよ!俺が呼んだのは葉琉だ!」
「え、中也。如何いうこと?」
「私と葉琉は常に一緒ではないか。そんな事も忘れてしまったのかい?身長だけでなく記憶容量まで小さいようだ」
ふっと笑う太宰に中也は「身長の事は余計なお世話だ!」と喰ってかかる。そんな二人を横目に葉琉が葉月に近付いてきた。
「実はね、中也から連絡貰ったの。花火やるから来いよって。ほら、この間迄は戦争状態だったでしょ?その戦争も終わってお互い私用だし、今回くらいはって思ったの。そしたら治ちゃんも付いて来てあんな感じに」
葉琉が指した方には中也と太宰が火の付いた花火を持って暴れていた。
「糞鯖がァ!俺が購った花火を手前が遣うンじゃねぇ!」
「身長と一緒で懐も小さいときた。随分とケチな幹部サマだね」
「社会不適合者が!花火購う金もねぇンだろ、どうせ!」
「ふふふ。私を甘く見ないでくれ給え。此れが私のとっておきさ」
太宰が懐から出したのは数本のロケット花火。太宰はそれを中也に向けて発射した。
「ッぶねぇだろ!糞太宰!」
二人の争いを呆れ乍見ていた葉月と葉琉も、花火を手に持ち火を付けた。
「ねぇ、葉月。能力の事と、葉月の躰の事、治ちゃんに聞いたよ。私の所為でーー」
「ストップ。謝らないで。あの時はこうするしか無かったんだと思う。じゃないと、葉琉はあの時に死んでいたかもしれない。幸いまだ私には時間が残っている。この時間を如何遣うかは自分で決められる。それで充分だよ」
「葉月…」
その時、ロケット花火が葉琉の横をすり抜けた。
「「あっ…」」
中也と太宰の声が重なると同時に葉琉が黒い笑みを浮かべてゆっくりと振り返る。そして、五本ほどの花火を持って突撃して行った。
葉琉は火の付いた花火を振り回し、中也と太宰を追い回している。その様子に堪らず葉月は笑い出した。