第11章 【SS】海辺の休日
宿に戻った中也と葉月は施設内のレストランで食事を済ませ、部屋に戻り外へ出る準備をしていた。中也は端末を取り出し「少し出る」と云って部屋を出た。たぶん、部下からの連絡だろうと思い先に準備を進める事にした。
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「待たせたな」
「休暇なのに大変ですね」
「まァな」
中也は何処と無く機嫌が良い様に伺える。何か取引が上手く言ったのだろうか?そんな事を思い乍、花火とバケツを持って海岸へ向かった。
海岸は昼間と違い誰も居ない。葉月は蝋燭を準備し、中也に火を灯してもらう。手持ち花火を準備し火をつけた。始めは緑の閃光を灯していたが次第に青に変わり、最後は赤になり消えた。
「花火って儚いけどその一瞬の輝きがとても綺麗で、記憶に焼きつくよね」
次の花火を手に取り、火を付ける。バチバチと火花を散らし色鮮やかな花を咲かせる。中也はそんな葉月の様子を唯、伺っていた。何も言わず、葉月と花火を見つめている。月明かりと花火の閃光が照らす葉月の表情は穏やかで、でも何処か憂いを帯びていて、中也には今の葉月の感情が読み取れなかった。
「ほら、中也もやろう」
にっこりと笑う葉月に花火を手渡され、火を付ける。
「綺麗だな」
「花火購って良かったでしょ?」
「そうだな」
咲き誇った花は直ぐに散り、微かな火薬の匂いが鼻を掠める。それは名残惜しそうに二人を包んだ。
「中也、考え事?」
消えた花火を持ったまま動かない中也を心配して葉月が覗き込む。はっと我に返った中也は「悪ィ」と慌てて水の入ったバケツに終わった花火を入れた。葉月はそれ以上何も聞かなかった。