第11章 【SS】海辺の休日
葉月の腕を掴んでいた手が捻り上げられた。
「痛ェッ!」
悲鳴にも似た声で叫ぶのは葉月の腕を掴んでいた軟派男。もう一人は急な出来事に驚いて動けずにいる。手を捻り上げている男は長身で襟足を一房纏めている眼鏡の男だ。
「国木田さん!」
国木田は葉月に応えることなく、軟派男の手を更に捻り上げた。
「何をしている、貴様等。くだらない事をしている暇があるなら少しでも人様の役に立て!」
男二人は国木田の圧に負け、そそくさと退散して行った。
「あの、国木田さん。有難う御座います」
葉月は椅子から立ち上がり、頭を下げた。国木田は葉月を見る事なく眼鏡を直して「否」と応える。国木田の背後には幻影の少年と怪力の少年がいた。
「では、我々はこれで」
「あの、国木田さん。先日は個人的に探偵社へ訪れたとは云え、身分を隠していた事、申し訳御座いませんでした」
「それと」と葉月は国木田の背後にいる少年二人に「あの時は運んで頂き有難う御座います」と頭を下げる。怪力の少年は「気にしないで下さい」と笑顔で応えてくれた。
国木田は「葉月さん」と漸く視線を合わせた。
「出来れば貴女とは、違う形でお会いしたかったです」
「え?」
キョトンとしている葉月から国木田は逃げる様に去って行った。不意に以前、太宰が言っていた事を思い出す。
(あぁ……あれは冗談ではなかったんだ。本当に申し訳ない事をしてしまったなぁ)
葉月は席に戻り、ふぅと小さい溜息を吐いた。