第11章 【SS】海辺の休日
目を覚ますとまだ外は暗かった。初めて感じる躰の痛みが、先刻までの出来事が夢では無い事を示している。風呂場から音が聴こえる。たぶん、中也が使っているのだろう。葉月は寝台に横になったまま、窓の外を眺めていた。
暫くすると、中也が風呂場から出てきた様だ。寝たふりをしている訳ではないが、中也から見るとまだ葉月は寝ている様に見えるだろう。中也はタオルで頭を拭き乍、葉月に背を向ける様に寝台の縁に座った。暗がりでも目が慣れている葉月は中也の背中にある一つの傷跡に気付き、そっと手を伸ばす。中也の躰はビクンッと震えて驚いた様に振り返った。
「起きてたのか?」
「うん。先刻起きた」
「躰、大丈夫か?」
「大丈夫」
「……如何した」
葉月は中也の背中をじーっと見つめていた。
「傷跡が…」
「傷跡?……あぁ」
中也は何かを思い出す様に背中に手を回し、目を伏せた。
「葉月に話さなきゃいけねぇ事があるって云ったな。葉月の話を聞いて、俺も話さなきゃって思ったンだ。少し、聞いてくれるか?」
葉月は起き上がり、床に落ちている服を拾うとそれを羽織って中也の横に並んだ。
「聞きたい。中也の話」
葉月の返事に何かを思い出す様に、ゆっくりと話始めた。