第11章 【SS】海辺の休日
「首領、姐さん、今日は有難う御座います。中也さんがあんな状態で挨拶もできずに申し訳御座いません」
首領と紅葉は「気にするな」と告げて部屋へ戻って行った。
「葉月君、中也殿を部屋へ運びたいのだが宜しいかね?」
「何時も有難う御座います、広津さん」
葉月はその場にいた芥川、樋口、立原、銀、梶井に挨拶をすると中也を抱えた広津と一緒に部屋へ戻った。
中也を寝台へ寝かせて貰い、広津は部屋を出て行った。中也は小さい鼾をかき乍、幸せそうに眠っている。葉月はシャワーを浴びて着替え、準備していた葡萄酒を注いで一人ベランダへ出た。葡萄酒を呑み乍、星空を眺めていた。
(こんなにゆっくりしたのは久しぶりだなぁ。中也も楽しそうだったし、本当に来て良かった。本当に、良い思い出になった)
「"悔いが残らない様に"か…」
じんわりと視界が滲み始める。決心が揺らいだ訳ではない。これからも、何時自分に何が起こっても佳い様に過ごしていく心算だ。両親の仇でありただ一人の妹を狙う『夢の旅人』を倒し、後腐れのない様に生きる。でも、出来れば……
その時、ベランダの扉が開く音が聞こえ振り向いた。
「中也…」
「こんな処で寂しい晩酌だな」
「中也が呑み過ぎて潰れるからでしょ?」
「そりゃァ済まねぇ事したな」
葉月は中也に腕を引かれて中に入る。中也からはまだほんのりとお酒の匂いがする。
「乱暴だなぁ。グラス持ってるのに危ないよ」
中也は葉月を抱きしめていた。
「泣いているかと思った」
「泣いてないよ」
葉月の持っていたワイングラスがそっと奪われ机に置かれる。目が合うと優しい接吻をした。触れるだけの接吻だ。其の儘腕を引かれ先刻まで中也が寝ていた寝台へ誘われる。
「ねぇ、中也」
「ん?」
中也は葉月に跨る様に見下ろす。
「大好きだよ。自分が思っている以上に、私は中也に夢中みたい」
「…手前ェ……あンまり可愛い事云うんじゃねぇ。加減出来なくなンぞ」
そう告げると先刻よりも深い、お互いを求め合う様な接吻をした。