第11章 【SS】海辺の休日
広津が前以て宴会場を準備している様だった。中也と葉月はエレベーターで目的の階層へ着くと、目の前には樋口が待っていた。
「お待ちしておりました、中也さん、葉月さん。どうぞ此方へ」
樋口に案内されて会場に入る。部屋にはずらりと会席料理が並んでいた。
「こりゃ凄ェな」
「随分と豪勢ですね」
中也と葉月は其々準備された席に着いた。後は首領、エリス、紅葉を待つのみだ。
少しすると紅葉が到着し、首領とエリスも程なくして到着した。
「諸君、今日はゆっくりと楽しんでくれ給え」
首領の掛け声で皆で麦酒の入った杯を掲げた。中也は首領の処へ麦酒を注ぎにいき、葉月も同様に紅葉の元へ行った。
「姐さん、御注ぎしますよ」
「済まんのう、葉月」
少し紅葉と話した葉月は席に戻り料理に手をつけた。中也はまだ首領の処にいる。
「葉月さん」
呼ばれ、振り向くと芥川の姿があった。
「今日はお疲れ様です」
そう言って麦酒の瓶を出す。葉月も「芥川君もね」と笑顔で空の杯を出す。芥川はゆっくりと麦酒を注いでくれた。
「有難う」
「否」
「今日はごめんね、意地悪しちゃって」
「僕がまだ未熟な故、起きた事態なので」
葉月が麦酒を呑み乍「確かに、まだ効果があるとは思わなかったわ」と微笑むと、芥川は「済みません」と目を伏せた。
「貴方はもう充分強いわ。そろそろ太宰さんからも、私からも卒業しなくちゃね」
芥川は小さい声で「はい…」と答えた。
芥川が去ろうとした時、中也が戻って来た。その為芥川はその儘残り、中也の周りには立原、梶井と人が集まってくる。葉月は首領と広津の処へ赴き、麦酒を注ぎに行った。
暫く宴会が続くと中也はかなり出来上がっていた。いつの間には葡萄酒も頼んでおり、立原、梶井と呑んでいた。銀は芥川と何やら話しており、葉月は樋口と和気藹々としていた。
宴会終了時には中也は机に突っ伏しており、折角勝ち取った酒場の飲み放題は行けそうにない。芥川は元々断る心算だったらしく、そのままなしとなった。