第11章 【SS】海辺の休日
「……きろ…起きろって。時間だぞ」
「……んー」
遠くに聞こえる中也の声に応えようとするも、瞼が重くて開かない。もぞもぞと寝返りを打つ。うつ伏せだった体制は仰向けに変わる。
「……スー…スー…」
「いい度胸だなァ」と云う声がした様な気がしたが、葉月はまた眠りに落ちようとしていた。
唇に感じる暖かい感触。
「あっ…」
声を出したのが間違いだった。少し開かれた唇から口内に侵入する何か。葉月は慌てて目を開けた。
「!?」
目の前には中也の顔。直ぐに自分が接吻されていると判った。葉月が起きた事に気付いても、中也は行為を止めようとしない。それ処か更に激しく舌を絡めてきた。
「んっ…ふぅ…や」
ドンドンと中也の胸を叩くと離れてくれた。
「ハァ…ハァ…」
葉月は漸く吸えた空気を胸一杯に取り込む。中也は自分の唇をペロリと舐めると「お早う」とニヤリと笑った。葉月は乱れた呼吸の儘「莫迦…」とだけ呟く。
中也は寝台から降りると、上着を着て帽子を被り「行くぞ」と声を掛けた。葉月は時計を確認すると飛び起きて急いで化粧をし、髪を直す。その間中也は入り口で立って待っていた。
「お待たせ!」
ゼーハーと先刻よりも息が乱れている葉月に、時計を確認した中也は「思ったより早かったな」と笑って部屋をでた。