第11章 【SS】海辺の休日
「立原ァ、梶井、手前らまとめて海の藻屑にしてやるよ」
「中也さん、その言葉そっくりそのまま返すッス」
「ならば!梶井特性のこの檸檬入り球を使って…!」
「おィ、芥川」
「承知、羅生門!」
檸檬爆弾入りの球は羅生門に奪われ海の彼方へ投げ飛ばされた。その様子を芥川を応援する為少し前に出て見ていた樋口が「芥川先輩、流石です!」と声をかければ「黙れ、樋口!」と凄い形相で睨まれていた。敷物に座っていた葉月は呆れ顔で「これって水排球だよね、物騒過ぎだよ」と呟いた。
試合は接戦となっていた。お互い一歩も譲らずに今夜の酒場を巡り争っていた。樋口は芥川が球に触る度に掛け声を上げ、その度に睨まれている。だが、そこで怯む樋口でもない。
「葉月は応援せんのかえ?」
紅葉が飲み物片手にビーチチェアに座り乍尋ねた。葉月は一度、目をパチクリさせ紅葉の質問に驚いた素振りを見せたが、直ぐ少し照れた表情に変わり「まだ私には皆の前で『頑張れ、中也』なんて恥ずかしくて言えませんよ」と言って笑った。その声は紅葉にだけ聞き取れたようだ。紅葉はふっと笑うと葉月の頭をよしよしと撫で「葉月は本当に愛いのう」と言った。
「別に何時もの調子で良かろう。声を掛けるだけで彼奴は喜ぶじゃろ」
にっこりと笑う紅葉に葉月も笑って立ち上がり、樋口の横に立った。
「中也さーん!頑張って下さいね!」
葉月の声に気付いた中也は「おう!」と返しニッと笑って手を振ってくれた。なんだか少し、特別な気分になった。慣れない事をした所為だろう。恥ずかしさはあったが、嬉しさの方が大きかった。