第11章 【SS】海辺の休日
葉月のサーブから始まった。
中也は綺麗にレシーブし、これまた芥川が上手にトスを上げる。其の儘中也のアタックが樋口の横を抜けて決まった。
「ッ!」
矢張り力のある男性のアタックは速い。取れる気配すら感じなかった。男女平等な世の中とはいえ、このチーム分けは不公平だろうと正直思っていたがこれ程とは…。
(あまり気は進まないが、切り札を使うしか…)
葉月は心の中で決心した。
中也のサーブをレシーブし、樋口がトスを上げる。葉月は高く飛び上がった。狙うは……芥川!葉月は飛び上がり乍、何時もより少し低めの声でこう言った。
「芥川君。動いちゃ駄目ですよ」
そして芥川の横を葉月のアタックがすり抜けた。
「「「………」」」
静まる一同。
「おィ、芥川!今のは取れたろ!」
「済みません、中也さん。反射的に躰が反応する故」
「葉月、芥川に何したッ!」
「何もしてませんよ。ちょっと数年前を思い出させて上げようかと」
くっと顔を背ける芥川に中也は同情の目を向ける。
「芥川、手前どんなトラウマ植え付けられたンだよ」
「黒い…葉月さんが黒い…」
樋口は初めて見る葉月の一面に驚きを隠せなかった。
試合の再開は樋口のサーブからだ。「行きますよー!芥川先ぱーい」と謎の声かけを行い球を打つ。芥川は樋口の掛け声に反応を示す事なくレシーブし、中也のトスで飛び上がりアタックを決める。それは見事樋口の顔に当たり、倒れた。
「煩い、樋口」
((突っ込みが痛い…))
樋口は顔に受けたダメージでぴくぴくとしている。
「一寸芥川君、幾らでなんでもこれは痛いよ」
「だが手前はこれで一人だ。如何するンだ?葉月」
敵のラスボスかと思える程の悪い笑みを浮かべる中也に葉月は悔しさを滲ませる。その時だ。
「葉月、困っておるようじゃのう」
声のする方を見ると紅葉が此方に向かって歩いて来た。
「姐さん!」
「姐さんも参加すンのかよ!?」
葉月の喜びとは反対に中也は苦虫を潰したような表情を浮かべた。
「何じゃ?私が代わりに出るのは不満かえ?」
中也へ視線を向けて問う紅葉に中也も黙るしか無かった。
樋口を日陰へ避けて、試合は再開された。