第11章 【SS】海辺の休日
途中、昼食を済ませてから宿泊施設へと向かった。
車を係の人に任せ荷物を持ってロビーへ入った時…
「リンタロウ、早く海行きたい」
「待ってね、エリスちゃん」
「早うせんか、鴎外殿」
あれ……空耳だろうか…
「ゴホッゴホッ」
「大丈夫ですか!?芥川先輩!」
随分と聞き慣れた声だ。疲れているのだろうか。
「お前達、粗相の無いようにな」
「判ってる!うるせぇジジィだなあ」
「…」
「うむ!海は生命の神秘!この梶井の科学実験に相応しい!」
姿は見えないが何処からか聞こえてくる声に葉月だけでは無く中也までもが青ざめている。ということは、この声は葉月の空耳ではなく"現実に聴こえている声"という事だ。
中也と葉月は一度顔を見合わせ、反射的に外へ出ようと身を翻した。
「おや、其処に居るのは中也と葉月かえ?」
一番厄介な人物に見つかった気がした。二人はゆっくりと声のした方へ振り向く。そこには艶やかな着物に身を包んだ紅葉がいた。紅葉は袖口で口元を隠し乍、にっこりと笑い「奇遇じゃのう」と二人に告げた。
「「あ、姐さん…」」
「やぁ中也君、葉月ちゃん」
次に出てきたのは首領だ。傍らにはエリスもいる。
「首領…これはいったい…」
陰からぞろぞろと現れる見慣れた集団に二人は言葉を失った。
「いやね、君達の話をエリスちゃんにしたら『私も行きたい』と言い出してねえ。噂を聞きつけた紅葉君も『一緒に連れてけ』と言う始末だよ」
笑い乍、首領は丁寧に説明してくれた。
「それで…何故この様な大所帯に?」
「護衛だよ」/「護衛じゃ」
「「そうですか…」」
二人はそれ以上の詮索は諦め紅葉に促される儘、中也はチェックインに向かった。