第11章 【SS】海辺の休日
組合戦から数日後、まだ完全ではないがマフィアも落ち着きを取り戻しつつあった。滞っていた事務処理や関連企業との会食などを乗り越え、中也と葉月はやっとの思いで三日間の休暇を捥ぎ取った。
ーー初日
葉月は鼻歌交じりで荷物を整理していた。まさか思い付きで出した提案がこんなに早く実現するとは嬉しい限りだ。しかも、首領から頂いた関連企業の宿泊券付きである。
今日の目的地は車で1時間ほど移動した距離にある宿泊施設だ。直ぐ目の前には海が広がっており、海水浴も楽しめるという。
事前に樋口と一緒に購入した水着を鞄に入れる。そう云えばこれを購う時、樋口が興味津々に「何処か行くんですか!?」と尋ねてきた。あの時は誤魔化したが今頃はマフィア内でも噂になっているであろう。それを思うと連休明けに本部へ行くのが少し怖い。
「もうこんな時間!」
時計を確認すると約束の時間まで一時間を切っていた。葉月は鏡の前に立ち、何度も確認した服装を再度確認する。白地の半袖ブラウスに膝丈の青い花柄スカート、何時もは上げている髪を下ろし巻いてみた。化粧も何時もより大人っぽさを目指した。
「よし!」
荷物を詰めた旅行鞄を玄関へ運び、迎えが来るまで居間でテレビを見ている事にした。
程なくして私用端末に連絡が入る。如何やら到着したようだ。葉月はテレビを消し、上着を羽織って玄関へ向かった。
エントランスへ出ると中也が車の助手席側に立ち待っていた。
「お待たせ」
「おう。なんか矢っ張り雰囲気変わるな」
中也は葉月の持っていた旅行鞄を受け取り後部座席に乗せた。
「どう変わってる?」
葉月の質問に助手席の扉を開け「綺麗だ」と微笑んだ。葉月は助手席に乗り込むと「中也も格好良いよ」と微笑み返した。
今日の中也は何時もの真っ黒とは違い、白いシャツの上にボルドー色の七分袖ジャケットを羽織り、ベージュのパンツを履いていた。帽子と手套は何時も通りである。
中也は運転席に戻ると車を発車させた。