第10章 華麗なる幕引きを
数時間後、白鯨が海に落ちたとの連絡があった。結局、葉月達には指令がなく終幕を迎えた。
幕を引いたのは探偵社の中島敦とポートマフィアの芥川龍之介。二人が組合の長、フィッツジェラルドを打ち取ったのだ。
首領はこの結末を判っていたのか、それとも太宰を信じたのか。これは首領本人にしか判らない。
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ーーその夜、ポートマフィア本部
中也は片手にワインともう片方にワイングラスを三つ持ち、窓際で椅子に腰掛けている二人の元へ向かった。
「ロマネの六十四年ものです」
「善いのかえ?秘蔵の品じゃろ」
中也の言葉に反応したのは着物を着こなした美しい女性、尾崎紅葉だ。
「今日の為に取っておいた」
紅葉と、もう一人椅子に座っている男性ポートマフィア首領森鴎外は、中也が注ぐワインを黙って待っていた。中也は注いだワイングラスを二人へ渡して自分も席に着いた。
「勝利に」
首領の掛け声共にグラスを掲げる。
「芥川の処罰は如何します?」
「処罰?彼は今回の功労者だ。それに芥川君は昔からそうだよ。独走し破壊し結果的に最大の貢献をする。彼なりの嗅覚だろうね。成功している限り処罰は無い」
首領は一口ワインを口にすると「処で紅葉君」と紅葉に顔を向けた。
「探偵社に囚われてた時…何故逃げなかったのかね?君の異能なら脱出は容易だったろう」
「却説、何故じゃったか……茶が旨かったからかのう?」
紅葉は何かを思い出すかの様に目を伏せた。
「……太宰は今回の結末まで凡て見えておった。恐ろしい男じゃ」
「紅葉君。君は強い…君が此処から去る気なら追うのは今や不可能だよ?」
首領の言葉に一瞬目を見開いた紅葉は「無論じゃ」と微笑んだ。
「じゃが生憎と、頼りない首領が組織を立て直す手伝いがあるでのう。彼の人の仇は先代じゃ。今は此処が気に入っておる」
「嬉しいけど、私の守備範囲は十二歳以下だよ?」
「黙れ。口を縫い合わすぞ」
二人の会話を黙って聞いていた中也は「首領」と声を掛けた。