第9章 双つの黒と蕾の運命
「貴方が葉琉を想う気持ちに免じて、今回は答えましょう。実際のところ、私も調査に行き詰まってます。私が答えられるのは私の身に起きた現象から予想できる事と、母が残した日記です」
「日記?」
「我が家を襲撃された後の遺品に残っていました。中身は唯の家族についての日記です。しかし、私にとっては違う物でした」
太宰は少し考えると「暗号か…」と呟いた。葉月は頷き続きを話した。
「小さい頃、母と遊びで作った物です。解読出来るのは今は私のみでしょう。葉琉はその頃から無理と投げていましたから」
葉月がふふっと笑うと太宰も「葉琉らしいね」と笑いが溢れた。
「母は、異能力者の実験施設に居たそうです。なんでも、異能力の譲渡についてだとか。
葉琉が五歳の頃、能力が覚醒しました。その力は当時の葉琉には大き過ぎ、暴走したそうです。あのままでは葉琉自身の命すらも氷漬けにしたことでしょう。
眠らされ、母の研究所に連れて行かれた葉琉は、いま宿している能力を分ける事になったそうです」
「その分けた相手が葉月ちゃんなのだね」
「その様です。私は異能力を持っていませんでした。葉琉と双子と云う事もあり、白羽の矢が立ったのでしょう」
「随分と勝手な大人達だね」
葉月は「本当ですよね」と微笑んだ。
「実験は成功し、私の中には葉琉の能力の半分が宿りました。しかし、宿った能力は永遠ではなく何れは葉琉に戻るそうです。私は自分の中にある能力を育て、【漂泊者】使用時に葉琉に譲渡する。私の中の力を育てきり、渡し終われば私の役目は終わりだそうです。
日記に書かれていた事実は此処までです」
「…成る程」と太宰は相槌を打った。
「研究者達も分けた後の事は判らなかったわけだ」
葉月は「何せ、私達が初事例ですので」と星空を仰いだ。
「お母様が今の葉月ちゃんに命の危険があると知ったら、如何なっていたのだろうね」
葉月はゆっくりと太宰に視線を戻す。太宰は真剣な眼差しで此方を見ていた。
「そこまでご存知でしたか。恐れ入ります」
「それで、君の考えは如何なんだい?」
太宰の質問に葉月は目を伏せた。