第9章 双つの黒と蕾の運命
中也は直ぐ様葉月達の後を追い太宰の元へ駆け寄った。
「治ちゃん!」
葉琉が抱き起すと太宰は「うふふふふ」と笑い出す。
「気持ち悪ィな」
「撲ち所が悪かったのでしょうか?」
「ゲホッ」と咳き込む太宰が吐いたのは血だ。
「手前…深手じゃねぇか」
流石の中也も焦りの表情を浮かべ、葉月と葉琉も驚きを隠せない。
「あの触手…実に不思議だ。異能無効化が通じない」
「そんなの有り得るの!?」
「私の無効化に例外はないよ、葉琉。可能性は一つしかない」
「…異能ではない、という事ですね」
「はァ…!?」
四人は一斉に男を見る。男は長髪を乱し、目は穿孔している。ぶつぶつと何かを呟いている様子だった。
「愉快な冗談だなァ、オイ。異能じゃねぇならありゃ何だ?」
「さぁ、それは私には判りません」
「たぶん、人外の類だろう」
「まるで幻想的だね。何時か龍とか出てきちゃったりして」
太宰は少し間を開けると提案した。
「仕方ない、懐かしの遣り方でいこう。作戦暗号『恥と蟇蛙の涙』は?」
「はァ?ここは『櫺子の外に雨』か『造花の嘘』だろうが」
「『月光と海月』でしょ」
「んー…私は太宰さんの作戦が適切かと」
「ほぅら中也、葉琉。私の作戦立案が間違ってた事は?」
葉琉と中也は「葉月が云うなら…」と返答すると、太宰は「あれ?提案者は私だよ」と主張している。葉月は「二人共、お願いね」と微笑んだ。