第9章 双つの黒と蕾の運命
中也が小屋を一歩出ると、頸元に触手が絡みついた。
「!?」
「さっきから妙に…肩が凝る……働き過ぎか…?」
外に居たのは先刻、中也に岩で轢かれた組合の長髪男だ。頸が可笑しな角度で曲がり、恐怖映像の様な出で立ちだった。触手は男の腕から伸びている。葉月は手を伸ばし「中也!」と叫ぶが、手は届く事なく、中也は其の儘触手に絡め取られた。
「ぬおあァッ!?」
中也が振りと落としたQを太宰が拾い小屋の中へ連れて行く。中也は一度空を舞い、小屋に打ち付けられた。
「チッ」
起き上がろうとした中也に別の攻撃が加わる。組合の男からでは無く、太宰だ。太宰は中也の頭に脚を乗せ「むう」とポーズを決めている。
「流石、組合の異能者。驚異的な頑丈さだ」
「踏むな!」
太宰の横から覗く様に葉琉が顔を出し「あれは一寸…頂けないなぁ」と明らかな拒否反応を示している。葉月は直ぐ様拳銃に手を伸ばし構え、発泡した。
ーパンッパンッパンッ
三発の乾いた銃声が響くのと同時に、太宰と葉琉の間を銃弾が走る。弾は男の額に三つの穴を空けた。しかし、その穴は直ぐに塞がる。
「一寸、葉月ちゃん!?危ないから !」
太宰は片耳を抑えビクビクし、葉琉も太宰とは反対側の耳を抑えてドキドキしていた。
葉月は銃を仕舞い乍「銃も全然効きませんね。脳幹を狙ったのですが」と呟いた。
「え、無視かな?」
いつの間にか立ち上がっていた中也は「ざまァみろ」と笑う。そして、次の攻撃準備に入る男に視線を戻す。
「来るぞ、如何する?」
「ふっ如何するも何も、私の異能無効化ならあんな攻撃小指の先で撃退…」
太宰の言葉が言い終わる前に触手は飛んできた。中也は葉月の頭を抑え屈み、葉琉も同じく屈む。触手は太宰に中り、吹っ飛んだ。
「治ちゃん!?」/「太宰ィ!?」
葉琉と中也の声が重なり飛ばされた太宰へ視線を向けるが、直ぐにもう一撃が迫る。
中也は葉月と葉琉に「行け!」と言い触手に向け異能力と合わせた打拳を打ち込む。触手は弾け飛んだ。