第9章 双つの黒と蕾の運命
振り下ろされた短刀はQに刺さる事なく、縛り付けていた蔓に突き立てられた。其の儘太宰は蔓を切っていく。
「甘ぇ奴だ。そう云う偽善臭え処も反吐が出るぜ」
葉月と葉琉はやっぱりねと言い合い、太宰の手伝いを行った。
「Qが生きてマフィアに居る限り、万一の安全装置である私の異能も必要だろ?マフィアは私を殺せなくなる。合理的判断だよ」
「…どうだか」
葉琉は「大損害を受けたマフィアと違って探偵社は被害無かったもんね」と太宰に言うと、太宰は「国木田君が恥ずかしい台詞を連呼しただけで済んだもんね」と返した。
「その国木田って社員に詛いが発動したのか。その後如何した」
中也は驚きの表情を浮かべ、二人に尋ねた。
太宰はさも当たり前のように「勿論、録画したけど?」と答えた。
(探偵社にも太宰で苦労してる奴がいるんだな…)
中也は一人納得し、少しの同情と同族意識が芽生えた。
蔓を撤去し、中也はQを負ぶさり元来た階段を登っていた。
「おい、クソ太宰。その人形を寄越せ」
太宰はQの人形を手に持ち「駄ー目」と答えた。
「万一に備えて私が預からせて貰うよ」
「あぁ、糞。昔から手前は俺の指示を露程も聞きゃしねぇ。この包帯の付属品が」
「何だって?中也みたいな帽子置き場に云われたくないね」
「この貧弱野郎!」
「ちびっこマフィア」
「社会不適合者!」
葉月と葉琉はまたやってると呆れ顔でその様子を伺っていた。
「その程度の悪口じゃそよ風にしか感じないねぇ」
「手前が泣かした女全員に今の住所伝えるぞ」
「ふん、そんな事……それはやめてくんないかな?……え?葉琉も葉月ちゃんもそんな目で見ないでくれ給え」
葉月と葉琉は今までにないくらいの冷たい目で太宰を見ていた。この時の中也の勝ち誇った顔は忘れる事は無いだろう。