第9章 双つの黒と蕾の運命
階段を降り乍、太宰が話し始めた。
「そう云えば、葉月ちゃん。国木田君が葉月ちゃんのこと気になってみたいだよ」
「国木田さんが?」
「治ちゃん、それ此処で云ったら….」
「おィ、誰だクニキダって」
「ほぉら変なの絡んで来た」
「変なのッて如何いう意味だ、葉琉!」
わいのわいのと始まった中也と葉琉の言い合いを眺めつつ、太宰は続けた。
「葉月ちゃんがマフィアだって聞いて失神しちゃうくらいには気になっていた様だね」
「それは…なんか申し訳ない事しましたね」
「面白かったし、良いよ」と云うと、太宰はまだ言い争ってる中也と葉琉の間に入って行った。
ついこの間までは、もう二度と訪れないと思っていた瞬間だ。まるで四年前に戻った様な光景だった。葉月はその瞬間を瞼に焼き付ける様に微笑み乍見つめていた。
階段を下まで降りると、目的の人物が見つかった。Qは太い蔓に絡まれ捕らえられていた。
「ほら、居たよ。助けを待つ眠り姫様だ」
太宰の言葉に葉琉が「眠り姫様ねぇ…」と呟いた。太宰はQに近付くと中也に「短刀貸して」と手を出した。中也は「あぁ…」と上着の内ポケットを探す。
「…ん?確か此処に…」
「あ、さっき念の為掏っておいたんだった」と太宰が態とらしく中也の短刀を取り出した。
「手前…」
太宰は薄い笑みを浮かべた儘、短刀をQの頸元に中てる。
「二人共、止めないの?」
葉琉の問い掛けに葉月は「首領には生きて連れ帰れと命令されているわ」と答え、チラリと中也を見た。中也は「だが」と続ける。
「その餓鬼を見てると詛いで死んだ部下達の死体袋が目の前をちらつきやがる」
最後に「やれよ」と冷めた目で太宰を見る。太宰は「そうかい…じゃ、遠慮なく」と短刀を振りかざした。