第9章 双つの黒と蕾の運命
中也と葉月は空を飛んでいた。言葉通りならお伽話の世界だが、二人が乗るのは箒でも絨毯でもない。大きな岩の塊だった。
「この突撃の仕方、如何にかならないの?」
「あァ!?手前が前に遣った作戦だろうが!」
「あ、此処で降ろして。中也は其の儘突っ込んで」
「俺は送迎車じゃねェ!だが、突っ込むのはノった」
下に見えるのはQが監禁されているとされる建物。その前には太宰と葉琉が組合の連中から銃を向けられていた。中也は葉月に触れると異能力を発動した。
異能力ー汚れつちまつた悲しみに
葉月の躰はふわりと浮いて其の儘地面に降ろされた。同時に中也が乗ったままの岩は組合の連中を轢き乍落ちていく。葉月は心の底から乗ってなくて良かった、と思った。
組合の連中は突撃してきた岩から飛び出す中也に銃を向け、発泡する。弾は中也に中ることなく其の儘地面に落ちた。
「最初に云っとくがなァ、この塵片したら次は手前等だからな?」
中也の挑発に太宰は頭を抑えている。葉琉も思っていたより派手な登場だったのだろう。少し呆れている。
「あーあ、矢っ張りこうなった。だから朝から遣る気出なかったのだよねえ……」
「諦めなよ。来てしまったものは仕様がないよ」
「バカな!こんな奇襲戦略予測には一言も…」
組合の男が手から蔓を出す。
「はい。悪いけどそれ禁止」
太宰が軽いノリで男の肩を叩くと蔓は消えていった。
「なっ…異能無効化!?」
そして、太宰を乗り越える様に組合の男に向かって中也が蹴りを入れる。男は凄まじい勢いで飛んで行った。
「あぁ、最悪だ最悪だ」
「私だって厭だよ」
「お二人共流石ですね」
「え、葉月何処から!?」
ひょっこりと現れた葉月に葉琉はすかさず突っ込みを入れた。