第9章 双つの黒と蕾の運命
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騒動から一夜明け、マフィア内でも徐々に被害状況が判ってきた。関係者の死体は本部のロビーに集められ、確認が行われていた。其処を訪れたのは首領と中也だ。中也は哀れむ様に帽子を取る。首領は「被害総数は?」と尋ねた。
「傘下組織を含めると百近い死者が出ています。癪ですが、太宰の木偶が詛いを無効化しなければこの十倍は被害が出ていたかと」
「首領として先代に面目が立たないねえ」
自動扉の開く音に二人は振り返る。
「おや、紅葉くん!それに、葉月ちゃん」
「葉月、手前…!」
「中也君」と手で制する首領に中也は渋々大人しくなる。
「太宰の奴に探偵社を追い出されましてのう。役立たずの捕虜を置いても世話代が嵩むからと、宿泊費代わりに伝達人の使い番まで押しつけられたわ」
「葉月」と目配せする紅葉に「はい」と返事をして、懐から手紙を取り出し首領に渡す。
「探偵社の社長から茶会の誘いだそうじゃ」
「……成る程、そう来たか」
封筒を見つめ笑みを零す首領に「首領」と葉月は声を掛けた。首領は唯視線を葉月に向けた。
「この度は身勝手な行動で組織の一大事に尽力出来なかった事、誠に申し訳御座いません。処罰は覚悟の上です」
深々と頭を下げる葉月の肩を優しく抱いたのは紅葉だった。
「鴎外殿、今回の騒動の終息は葉月と葉琉の能力があってこそ成し得たもの。葉月も組織の為に自分が出来る事を考えて行動を起こしたのじゃ」
首領は「ふむ」と考える素振りを見せた。
「結果的に一番貢献したのは葉月ちゃんだからねえ。今回は不問としよう」
葉月は頭を下げた儘「有難う御座います」と答えた。
首領は手紙を懐に仕舞い去って行った。
ジロリと睨む視線に気付き、中也の方を向く。紅葉は「これ、中也」と止めようとする。
「姐さん、大丈夫です。中也さん、この度は申し訳御座いませんでした」
頭を下げる葉月に中也も此処では何も言えず「部屋に戻ってろ」とだけ告げて騒動の後処理に向かった。
葉月は姐さんと一緒にその場を後にした。