第9章 双つの黒と蕾の運命
目を覚ますと辺りは暗くなっていた。如何やら半日以上眠ってしまっていたようだ。今までで一番長く時間を止めていた気がした。その分眠っていた時間も長かった様だった。
傍らには椅子に座り乍眠る葉琉の姿があった。どうやら先に目を覚まし、葉月が起きるのを待っていた様だ。
「よく眠れたかい?葉月ちゃん」
声のする方を見ると暗がりで本を読む太宰が居た。
「お陰様で徹夜の疲れも吹っ飛びました」
「それは何よりだ」
太宰は本を閉じ、葉月に歩み寄る。
「作戦は成功した。街の被害も想定内で済んだ様だ」
「……」
「心配かい?」
俯く葉月に太宰は声を掛けた。
「心配ですよ。街の被害とマフィアの被害はまた別ですから」
太宰は肩を竦め「やれやれ」と呟いた。
「元はと云えばQを放ったマフィアの所為だろう?私と葉琉はその尻拭いをしたまでだ」
「はいはい、有難う御座いました。それで、態々私が起きるのを待っていた理由はなんですか?」
太宰は一度むっとした顔をしたが、直ぐに葉月の質問の答えを返した。
「君達に頼みたいことがあってね」
「君達?」
「葉月ちゃんと、紅葉の姐さんだ」
紅葉は探偵社に捕らえられた儘なのは葉月も知っていた。しかし、真逆ここで紅葉の名前が出てくるとは思っていなかった。
「私は今回、個人的に探偵社を訪れています。 マフィア関係は姐さんに頼んで下さい」
「つれないなぁ」
ぷいっと横を向く葉月に太宰は苦笑いを浮かべた。そして、「明日、姐さんを解放する」と言った。
「…捕虜を其の儘返すだなんて、太宰さんらしくありませんね。また何か企んでますね?」
「あまり気が進まないのだがね。社長が決めた事だ、仕様がない」
「…何をする心算ですか?」
太宰はニンマリと笑い「君はマフィアの事は関係無いのだろう?」と尋ねて来た。本当に厭な男だ。確実に顔にも出ているだろう。太宰はそんな事気にせずに笑っていた。
「判りました。その話、伺いましょう」
溜息交じりに返事をした葉月に太宰は更に満足そうな笑みを浮かべた。