第8章 三組織異能力戦争
太宰の予想通り街にいる人々の至る所に痣が浮き出ていた。これはQの異能の受信者の証だ。一度家に戻り着替えた葉月は直ぐに探偵社へ向かった。髪を二つに縛り、葉琉に類似した服装を纏う。今回はマフィアとしてではなく、葉月個人としての協力だ。少しでも探偵社側の警戒を解けるようにと敢えて似た物を準備した。
事務所の扉を開けると数名の社員が居た。誰に話し掛けていいかは判らない為、取り敢えず扉の位置から全員に尋ねる。
「あれ、治ちゃんは?」
「あ、葉琉さん。太宰さんなら先刻、屋上へ行きましたよ」
赤毛の少年が快く答えてくれた。どうやら作戦は成功のようだ。「有難う」と告げ扉を閉めようとした時、奥に居たラムネを飲んでいる男性が声を掛けてきた。
「葉琉ちゃん、国木田と外行ってたんじゃなかったの?」
その男は葉月も資料で見た男だった。
(成る程。あの男が名探偵さんか)
葉月は笑顔で「一寸忘れ物です」と告げると直ぐに扉を閉めた。あの名探偵と話すと拙いと直感的に察した。
屋上の扉を開けると太宰がぼけーっと空を見上げていた。
「太宰さん。約束通り来ましたよ」
葉月の声で太宰は振り向いた。そして、少し驚いたような声を上げた。
「葉琉かと思ったよ」
「一瞬でも太宰さんが見間違えたならこの格好は成功ですね」
二つに縛っていた髪を解き、纏め、バレッタで止めた。太宰はまた空を見上げ始めた。
「街にはもう痣が浮き上がっている人達が居ました。そろそろですね」
「中也には何か伝えたのかい?」
「手紙を残して来ました。そろそろ読んでいる頃かと思います」
「ふーん」と興味無さ気な返事をする太宰に、相変わらずだなぁと笑みが零れる。その時だった。
勢いよく屋上の扉が開いた。息を切らし乍、此方を見ているのは葉琉だった。
「葉月…何してるの?」
後から来た眼鏡の男は葉琉と葉月を見比べて言葉を失っている。如何やら彼は葉月達の関係も葉月がマフィアだという事も知らない様だった。