第8章 三組織異能力戦争
その封筒は見覚えのある物だった。葉月は封筒を指で突き乍「なるほど」と呟いた。
その封筒は以前は葉月の物だった。否、太宰と葉琉が消えた夜から数日後、首領から貰った物だ。
「矢張り貴方が持っていましたか。中身を掏り替えたのも太宰さんですね」
返答代わりに太宰はにっこりと笑っていた。葉月は封筒の中身を確認する。中には以前、西方で遭った『夢の旅人』と呼ばれる男の写真と情報が入っていた。
「何故こんな事をしたか、尋ねても?」
「君なら彼について内密に調べると思ったからね」
太宰の云う『彼』とは『ドストエフスキー』の事だろう。確かに葉月は自分が持てる全てを使って彼を調べた。
「君にも知っておいて欲しかったのだよ。これから起こる"本当の災厄"に備えて」
「それは、この『夢の旅人』さんより重要だと?」
「君がその人を知っているという事は接触してきた様だね。予定より随分と早い様だ」
全てがこの太宰と云う男の掌の上なのか、と思いたくなる程余裕のある顔だった。
「彼は夢を終わらせたいと言っていました。そして、私達にはその力があると」
「君達の能力は更に強くなるのは確かだ」
「でも二人共、と云う訳では無いですよね」
太宰は葉月の言葉に肯定も否定もしない。葉月もそれ以降聞く事なく酒を口にした。
「判りました、太宰さん。条件は『葉琉には時が来るまで両親の死については伝えない』でどうでしょうか。時期は太宰さんにお任せします」
「この封筒じゃダメかい?」
「これは元々私の物ですよ」
「……では、そうしよう」
太宰は薄い笑みを浮かべて、溶けて小さくなった氷の入った酒を呑んだ。葉月はゆっくりと立ち上がる。
「もう行くのかい?」
「私達は今は敵同士ですよ。それに、葉琉に悪いですから。では異変を感じ次第、探偵社に向かいます。その方が能力を使った後処理が楽だと思うので。あ、言い忘れてましたが私の身の安全は保証して下さいね」
「善処しよう」
「では、失礼致します」
葉月は其の儘太宰を置いて店をでた。