第8章 三組織異能力戦争
「組合はQを捕らえて如何すると思う?」
太宰の質問に葉月は少し考え「利用できるのなら利用したいですね」と答えた。
「組合の異能者に植物と感覚を共有させる者がいるようです。彼は植物から介して別の植物とも感覚を共有できます。その植物がQと合わさり痛覚を共有出来れば、植物を傷付けるだけで詛いの発動条件が揃う。我々や探偵社に仕掛ければ全滅も免れません」
太宰は満足気に頷いた。しかし「それだけではないよ」と話始める。
「もしその植物が街全体を対象としたら…」
「まさか…無差別テロですか?」
太宰は頷き「ヨコハマは火の海になる」と呟いた。
暫く沈黙が続き葉月は二杯目に口を付けた。
「それで、太宰さんにはそれを止める手立てがあると?」
「止める事は難しいだろうね。だが、被害を抑える事は出来る筈だ」
「と、云うと?」
「ウチの新人君も組合に捕まっていてね。その子はQの詛いの発動条件も止め方も知っている」
葉月は少し考え「あぁ、人虎ですか」と応え、太宰は「人虎じゃなくて敦君」と口を尖らせた。
「失礼しました。それで、敦君はQの人形を持ってあの空から落ちてくると?随分信頼しているのですね。芥川君が知ったら発狂ものですよ」
太宰はクスクスと笑いながら「もう遅いよ」と言った。
「そこで【漂泊者】と云う訳ですね。落ちてくる座標まではその時にしか判らない。時間を止めてその中で動ける太宰さんが少しでも敦君に近付ける様に」
「その通りだよ。ヨコハマが火の海になって一番困るのは其処で商売をしているマフィアだろ?」
葉月は答えずに酒を呑んだ。確かに太宰の言っている事は正しい。だが、共通の敵がいるとはいえ葉月も太宰も敵同士だ。葉月個人の判断で協力すれば下手すれば死罪。
太宰は葉月の心を見透かした様に「心配いらないよ」と微笑んだ。葉月は視線だけ太宰に向けた。
「此方には紅葉の姐さんがいる。姐さんなら葉月ちゃんの為に森さんに掛け合ってくれるだろう」
本当に厭な男だ。最初から別の道など用意してはいないと云う事か。
「それで、私への見返りは何ですか?『取引』なのでしょう?」
太宰は無言で懐から封筒を取り出しスッ私の横へ置いた。