第8章 三組織異能力戦争
Qが捕らえられた報を中也と葉月は執務室で受けた。中也は直ぐに首領に呼ばれ執務室を出て行った。
中也が出て行った後、葉月の私用端末に連絡が入った。
【今夜、何時もの場所で】
宛先も無い短いメールだ。だが葉月には直ぐに誰か判った。そっと端末を仕舞うと其の儘仕事を続けた。
その夜、葉月は独りである場所へ向かっていた。先刻のメールの差出人に会う為だ。葉月は【Lpine】と書かれた酒場の前で一度足を止め、深呼吸をして階段を降り始めた。
下まで行くと昔と変わらぬ席で杯の氷を突いてる男が居た。男は葉月に気が付くと「やぁ、葉月ちゃん」と笑い掛けた。
葉月は「矢張り貴方でしたか、太宰さん。主人、林檎酒で」と言い、一つ間を空けて椅子に腰かけた。直ぐに注文した林檎酒が前に置かれる。葉月は一口呑むと太宰に顔を向けた。
「何処で私の連絡先を?流石に怖いんですが。…それ、如何したんですか?」
葉月は太宰の頸から吊られている右腕を指した。太宰は「一寸ね」とだけ答えた。
「Qが組合に捕まったそうだね」
葉月は黙っていたが、太宰はにこにこと此方を見ている。先に痺れを切らしたのは葉月だ。
「はぁ、ホント何処からそんな情報が…」
「私に調べられない事はないよ」
「…それで?危険を冒してまで解き放ったQを敵組織に取られた哀れなマフィアを嗤うために、態々私を呼んだのですか?」
「それもあるけど…」と太宰はかに缶を開ける。
「葉月ちゃんと取引がしたい」
葉月はピクリと反応し「取引?」と聞き返す。太宰は笑みを浮かべたまま此方を見ていた。
「私には渡せるものなんて何も有りませんよ」
「【漂泊者】を遣いたい」
太宰の言葉に一度酒を煽る。そして飲み干すと太宰に向き直った。
「葉琉は何と?」
「まだ伝えてないよ」
「先ずは詳しく話を聞きましょうか」
葉月の応えに太宰はまたにっこりと笑った。