第8章 三組織異能力戦争
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「姐さん、行かれるのですね」
葉月の瞳に映る背中はゆっくりと振り返った。そして、寂しそうな笑みを浮かべると何も言わずに行ってしまった。
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その報せを受けたのは紅葉が任務に出て数時間後だった。
「襲撃された!?探偵社ですか!?」
『否、組合の連中です』
葉月の元に紅葉の部下から連絡があったのだ。葉月は部下を連れて急いで現場に向かった。
「ーッ!これは……」
現場は悲惨な状況だった。既に息をしていない者もいた。
「救護急いで!あと、車回して!」
何時もと違い荒い口調での指示に部下達にも葉月の焦りが伝わる。バタバタと動き始める部下を余所にぐるりと周りを見渡した。
「萩原さん、来てください!」
部下に呼ばれ意識が残っている紅葉の部下の元へ走った。
「姐さんは、尾崎幹部は何処ですか!?」
起き上がるのもやっとな男は「探偵社に連れて行かれました」と答えた。
「……何ですって」
「萩原さん!」
動揺している葉月の元へ別の部下が走ってきた。
「中原幹部からお電話です」
端末を渡され直ぐに耳に中る。
「萩原です」
『俺だ。状況は?』
葉月は生存者から事の顛末を聞き、それを簡潔に伝えた。勿論、紅葉の事もだ。電話の向こうで舌打ちが聞こえた。
『判った。首領には俺から伝える。葉月は手早く処理を済ませて戻れ』
「姐さん如何するの!?直ぐにでも…」
『手前が落ち着かねぇで如何すンだ。状況を確認して冷静に指示を出す。それが手前の仕事だろ』
周りには不安そうに葉月の様子を伺う部下達がいた。先刻までの葉月には見えていなかった光景だ。葉月は一度深呼吸をした。
「申し訳御座いません。任務を遂行します」
『姐さんについては首領に伝える。其方は頼んだぞ』
「…有難う」と言って電話を切った。葉月はもう一度深呼吸すると、部下達に指示を出し始めた。部下達も緊張が解れたのか先刻よりも早いペースで作業を行った。