第7章 友の幽鬱
深夜の着信音で樋口は目を覚ました。直ぐに電話にでる。電話の奥からは焦り混じりに聞こえる構成員の声。内容を聞いて樋口は家を飛び出した。
芥川がカルマ・トランジットに捕らえられたとの連絡だった。
向かう先は武器庫。入り口の横には黒蜥蜴の広津が立っていた。
「再思し給え、上意に悖る」
広津の言葉を無視し、電子錠の解除を行う。
「姐さん正気か?自殺行為だぜ」
立原が歩み寄ってくる。気にせず武器の準備を行う。
「芥川の兄人を拐ったのは【カルマ・トランジット】の残党が雇った国外の傭兵だ。数が揃ってるうえ、銃火器でこれでもかって程武装してやがる。直に首領から奪還作戦の指示がくる。それまで待てよ!」
立原に腕を掴まれそれを睨み返した。手を払いのけ「指示は永遠に来ません」と呟く。
「芥川先輩個人を襲った密輸屋に対し組織をあげて反撃すれば、他組織に飛び火して大規模抗争になる。それを避ける為上は構成員個人の諍いとして棄て置く心算です。芥川先輩は切り捨てられた」
「だが、アンタ一人如きで何が出来るんだ」
「何も出来ません。でも何もしないなんて、私には無理です!」
そう言うと樋口は走り出した。持てるだけの銃火器を揃えて。
「何時ぞやの貴女の様ですな」
走り去る樋口の背中を見つめ乍、広津が呟いた。武器庫の陰では見えない処で葉月が俯いていた。
「もう昔の話ですよ」
「此の儘では貴女も飛び出しそうで心許ない。部隊も何も関係ない貴女が行けば其れこそ抗争の火種になる」
「判ってます。判ってますよ、それくらい」
広津はふぅと小さい溜息を吐き、歩き出した。
「行くぞ、お前達。上司の危機だ」
後ろからズラリと現れた構成員を従え黒蜥蜴の面々は去って行った。