• テキストサイズ

暗闇の蕾【文豪ストレイドッグス】

第7章 友の幽鬱


樋口が出た後、執務室の別の扉が開いた。出てきたのは居ないと思われたこの部屋の主人、中原中也だ。

「葉月、良い度胸だな。俺の部屋を勝手に使うとは」

口調は荒いが表情は笑っている。

「あら、中也。居たんだ。勝手にも何も、此処には私の机も椅子も有るし、私の部屋でも有ると思うんだけど」

ソファに座り乍珈琲を飲んでいる葉月を中也は後ろから抱きしめた。

「なァ、葉月が守りてぇ奴って誰だよ」

葉月は直ぐ横に有る中也の頭に寄りかかる様に頭をくっつけた。

「さぁ、誰でしょう」

そう言って笑っている。しかし、葉月は直ぐに立ち上がり「さぁ仕事仕事!」と机に戻った。中也も呆れる様に笑い「逃げやがって」と呟きながら机に戻った。




● ● ●




中原幹部の執務室を後にした樋口は、芥川が居る部屋へ行った。管に繋がれて横たわる芥川の傍で、唯その様子を見ていた。

ーー「守りたい人がいるから」

不意に葉月の言葉が頭に浮かぶ。そっと芥川に触れようと手を伸ばす。

ーー「お前の扶けなど要らぬ」

芥川が放った言葉が頭を過る。触れようとした手は直前で止められ、行き場をなくした。
そっと立ち上がり。部屋を出て行った。





帰宅した樋口は扉に背中を預け蹲み込んだ。

ーー「君は自分が、この仕事に向いていると思ったことは有るかね?」

「……そんなの…有る訳ないでしょ…」

自分が幾ら守りたいと思っても、相手は自分を必要としない。

「私を必要としてくれる人なんて…」

樋口は暫く其処から動けなかった。
/ 280ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp