第7章 友の幽鬱
樋口は芥川が囚われてると思われる建物の前に居た。隠れ乍様子を伺う。中には武装兵が数人見える。まだ奥にも居るだろう。
躰の震えが止まらない。心臓は更に速度を増す。目を閉じて呼吸を整える様に深呼吸をする。意を決して手榴弾を投げ込んだ。
爆発を確認すると銃を手に単身乗り込む。不意を突かれた武装兵は最初の襲撃で数人減らす事ができた。しかし、敵を認識した武装兵は簡単にはいかない。物陰に隠れ乍の交戦が始まった。交戦は数と備蓄がモノを云う。樋口には圧倒的に不利だ。
直ぐに戦況は変わった。銃撃戦の最中、樋口の脚に敵の弾丸が中った。直ぐに物陰に隠れて傷を確認する。弾は貫通し、血が溢れてきている。
(この傷では…)
目を閉じて深呼吸をする。
(私の…守りたい人…)
頭に浮かぶ、大切な人…
樋口は叫びながら両手の銃を乱射し走りだした。
(私が…)
片方の銃が弾き飛ばされ、其の儘銃口が樋口に向けられる。
(この仕事を辞めなかったのは…)
バンッーーー
樋口に銃口を向けていた敵は倒れた。驚き、銃声の聞こえた方を見た。其処に居たのは黒蜥蜴率いる構成員だった。
「知らねぇ顔は全員殺せ!」
立原の掛け声と共に攻撃を始める構成員達。立原、銀、広津も後に続く。
「若者の無茶は彼らの特権だ。大目に見給え。私も若い時分は大変なものだったよ」
「黒蜥蜴…!どうして」
「貴女は我々の上司だ。上司の危機とあっては動かぬ訳にもいくまい」
瞬く間に武装兵は殲滅された。
「う………」
樋口の耳は奥の部屋からの声を捉えた。急いでその場に向かう。
「芥川先輩!」
「……樋口か」
芥川は弱々しく横たわって居た。
「先輩…血が」
芥川の顔に付いた血を拭きとる。芥川はゆっくりとその手を取った。
「……済まんな」
一瞬で報われた気がした。
(…私は……守ってもいいんだ…)
霞む視界の中、芥川の手を握りしめる。
「……仕事ですから」
ーー組織を抜けるのは不可能ではない。
それでも私がそうしなかったのは…