第7章 友の幽鬱
中に入るとソファに座らされ、珈琲が出てきた。
「少し落ち着こう。良かったら呑んで」
「有難う御座います」
一口呑むと口一杯に珈琲の豊かな香りが広がった。思わず「美味しい…」と声に出る。「良かった」と笑う葉月は見た目の所為か無邪気な子供の様だった。
「芥川君…の事だよね?大丈夫?」
「…はい」
「ごめんね、最後まで一緒に任務出来なくて」
「否、葉月さんの所為じゃありませんから」
俯き乍珈琲を呑む樋口を葉月は心配そうに見つめた。今にも倒れてしまいそうなくらい顔色が悪かった。
「あの…葉月さん」
「何?」
「葉月さんは何故マフィアに居るんですか?」
樋口の質問に対して葉月は身動き一つ取らなかった。樋口は慌てて「済みません、忘れて下さい」と告げる。
「……大丈夫。少し驚いただけだから。あ、私に妹がいる事は知ってるよね?」
「はい、葉琉さんですよね。彼女も四年前までは此処に居たと聞いています。個人的に気になって資料を調べました。体術と異能力を合わせて数々の功績を挙げていたそうですね」
「うん。葉琉は元々戦闘に関しては才能があったみたい。中也さんの下に付いていた事もあって、体術も熟す様になって更に功績を伸ばして行ったの。でも私は葉琉の様な戦闘向きの異能力でもなく、格闘センスもない。だから私は陰で支えられる様な補助的な事を学ぶ事にしたの。私の元上司が武闘派じゃなかったのもあったしね」
確かに葉琉の記録は多く残っていたが、葉月が中心となる記録は少ない。でも大きな作戦には必ず名前がある。彼女が居たからこそ、作戦は回ってきたのだ。彼女自体強いわけではない。しかし、芥川を始め組織内の多くの者が彼女に敬意を表する。それは強さではない別の何かにだ。樋口にはまだ、その何かが判らなかった。
「私が組織に居る理由、ねぇ。単純だよ、守りたい人がいるから。その人を守りたいから作戦を考える、闘い易い様にする。私自身が闘えたら一番良いんだけど、無理だからねぇ」
へらぁと笑う葉月はまた幼い表情を見せた。少し違和感を感じた樋口だったが、珈琲を飲み終えると立ち上がった。
「葉月さん、お話し有難う御座います」
「全然だよ。また遊びにおいで」
葉月に見送られて執務室をでた。