第6章 時として望まぬとて
心臓の鼓動が煩かった。唯二人で歩いているだけなのにいつもと違う気がした。でも、今言わなければ私も一歩を踏み出せない気がした。
「葉月」
「な、なに?」
急に名前を呼ばれつい身構えてしまう。そんな私を中也は訝しげに思っただろう。だが、そのまま話を続けてくれた。
「葉琉とちゃんと話せたか?」
そうだ。中也はずっと心配してくれていた。中也が背中を押してくれたから、私は葉琉と話す勇気が出た。中也になら話してもいいと思えた。
「うん。葉琉、怒ってなかった。寧ろ、探偵社に入ってちゃんと自分の居場所見つけてた。あんなに私達の後付いて来てた葉琉が、自分で選んだ道を進もうとしてた。覚悟も…ちゃんと出来てると思う」
ははっと笑う私をみて、中也は寂しそうな表情を浮かべた。
「葉月は如何なんだ」
「如何って、葉琉のこと応援するよ。姉としてはね」
「そうじゃねェよ」
中也は立ち止まった。私もつられて止まる。
「手前は何時もそうだ。上っ面だけの答えだ」
とても切なそうな表情を浮かべる中也。
「無理して笑ってる葉月なんか見たくねぇンだよ」
気が付くと中也に抱き締められていた。心の奥に仕舞っていた物が無理矢理飛び出した。それは雫となって瞳から溢れた。
「あ……あぁ…」
「俺が居る。葉月は一人じゃねぇ。手前が溜めてたモン、全部受け止めてやる」
中也の言葉が、喉に詰まっていたものを押し出した。
「私……葉琉…一緒にいたかった…!おねがい…いかないでって…いいたかった…。中也…私……さみしかった…つらかった…お父さんの事もぜんぶ…ぜんぶ一人でやらなきゃって…」
「それが手前の悪い癖だ。自分の気持ちを押さえ込んで、全部一人で背負っちまう」
中也は抱き締め乍、頭を撫でてくれた。
「少しくらいこうやって俺を頼れよ」
その声は優しかった。すっと心に響く声。溢れかえって空っぽな心に、別の何かが満たされていく。
「ねぇ、中也。私ね…中也にも伝えたい事があるの。私ね…」
中也の手は私の唇をそっと抑えた。