第6章 時として望まぬとて
執務室に戻ると中也の姿は無かった。太宰さんの計画通りに事が進んでいるのだと判った。不意に携帯に着信が入る。画面には【中原中也】の文字。私は急いで電話に出た。
「はい、萩原です」
『俺だ。今日の任務俺も出る』
機嫌の悪そうな声が携帯から聞こえた。多分、太宰さんにしてやられたのだろう。私は「判りました」と伝えて電話を切った。そして、今日任務へ行く予定だった部隊に連絡し「今日の任務は中也さんが出るので不要です」と伝えた。
ーー夜、麻薬密売組織拠点ビル前
「葉月。他の奴等は如何した」
時間近くになっても集まらない部下に苛々し乍、中也が尋ねた。
「あ、ごめん。伝え忘れてた。中也が好きに暴れると思ったから、来なくていいって伝えたの。迷惑だった?」
「……否、好都合だ」
中也はニヤリと笑った。そして、「葉月は待ってろ」と言って建物の中に入って行った。暫くすると、建物自体が揺れ始める。
(あー、結構暴れてるなぁ。処理大変だろうなぁ)
建物から少し離れ、その様子を眺めていた。私は今日、この任務の後に中也に伝えようと決めていた。自分の気持ちを。受け止めてくれるとは限らない。私は何度も中也を困らせてきた。呆れられていても可笑しくない。でも、私の最初の一歩は自分の気持ちを素直に伝えることだと思った。
『俺だ。終わったから掃除屋呼んでくれ』
「了解」
インカムから聞こえた中也の声に一瞬ドキッとし乍、携帯を取り出し後処理の依頼をした。少し斜めになったように見える建物から中也が出て来た。私の心臓は更に速くなった。たぶん、緊張しているのだ。
「お疲れ様、中也」
「おう」
気が晴れたのか、先刻より表情が明るく見える。「帰るか」と言う中也の言葉で私達は歩き出した。