第6章 時として望まぬとて
そんな葉琉が自分で行きたいと言っている。姉として背中を押す以外の選択肢は無かった。しかし、仮にも私はマフィアの準幹部で葉琉は裏切り者だ。お互い立場というものがある。
「次に遭った時、もし敵同士なら私と闘える?」
意地悪な質問だと判っていた。しかし、葉琉にもお互いの立場を、認識させる必要がある。暫く間があったが、決意したように頷いた。
「私にも守るものがある。葉月がそれを脅かすなら私は闘う。……だから葉月も、ちゃんと自分を一番に考えてね」
葉琉の言葉に一瞬驚いたが、直ぐに頷いた。気が付くと、互いに涙は止まっていた。二人の表情には笑みが浮かび上がっていた。
「却説、御代の分働きますか」
「御代って?」
葉琉の頭に疑問符が浮かぶ。
「今、この瞬間、私達がちゃんと話せるようにしてくれたのは太宰さんなの。だからそのお礼をしなくちゃなの」
「え!?薄々厭な予感はしてたけどやっぱ治ちゃんの仕業だったのね。一言教えてくれれば良かったのに」
はぁ、と溜息を吐く葉琉。その様子にクスクスと笑い乍、葉琉の後ろに回った。ヘアピンを取り出し、手と腕を縛っている帯の金具を弄り始めた。
「葉月、まさか…」
「そ。太宰さんがやった風にしないとね。私、此処を抜ける訳にはいかないもん」
少し弄るとカチャリと鳴った。これも太宰さんのご教授の賜物です。有難う御座います。
「後は葉琉の力だけで取れるから、私が居なくなってから取ってね」
「葉月、行っちゃうの?」
「私がいる時に出て行かれたら拙いでしょう」
「あ、納得」
私は立ち上がり出口に向かった。そして、葉琉の方に向き直った。
「葉琉、太宰さんがまだ捕まったままなら地下。逃げてるなら二階にいると思う。次、どんな風に遭うかは判らないけど、元気でね」
「有難う。葉月も元気でね。中也にも宜しく」
そのまま私は部屋を出て行った。