第6章 時として望まぬとて
「何がおかしい」
「いいことを教えよう。明日、五大幹部会がある」
中也は驚きの表情を浮かべる。
「五大幹部会?莫迦な。あれは数年に一度、組織の超重要事項を決定する時だけ開かれる会だ。あるなら疾っくに連絡が…」
「理由は私が先日、組織上層部にある手紙を送ったからだ。で、予言するんだけど…君は私を殺さない。どころか懸賞金に関する情報の在処を私に教えたうえで、この部屋を出て行く。それも、内股歩きのお嬢様口調でね」
「はぁ!?」
「私の予言は必ず中る。知ってると思うけど」
「この状況からか?巫山戯る……手紙?」
「手紙の内容はこうだ」
【太宰ー死歿せしむる時、汝らの凡る秘匿公にならん】
中也は動揺と共に太宰から離れた。
「真逆手前…」
「元幹部で裏切り者の私を捕縛した。だけど上層部に【太宰が死んだら組織の秘密が全部バラされるよ】っていう手紙までついてきた。検事局に渡ればマフィア幹部全員、百回は死刑にできる。幹部会を開くには十分過ぎる脅しだ」
「そんな脅しに日和るほどマフィアは温くねぇ。手前は死ぬ。死刑だ」
「だろうね。けどそれは幹部会の決定事項だ。勝手に私刑にかけたら独断行動で背信問題になる。罷免か、最悪処刑だ」
中也から動揺の色は消えない。
「そして…俺が諸々の柵を振り切って形振り構わず手前を殺したとしても…手前は死ねて喜ぶだけ?」
太宰はぱぁっと笑顔を浮かべ「やりたきゃどうぞ」と中也を煽る。中也の怒りは既に容量を超えている。
「ほら早く。まーだーかーなー?」
わなわなと震える中也だが、持っていた短剣を手放した。
「何だ。やめるの?『私の所為で葉月ちゃんを捨て、組織を追われる中也』ってのも素敵だったのに」
「真逆……二つ目の目的は、俺に今の最悪な選択をさせること?」
太宰は平然と「そ」と答えた。
「俺が嫌がらせをしに来たんじゃなく……実は手前こそが嫌がらせをする為に、俺を待ってたって事か?」
「久しぶりの再会なんだ。このくらいの仕込みは当然だよ」と爽やかに太宰は言った。