第6章 時として望まぬとて
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仕事が落ち着き、中也は一服していた。登っていく煙を只見つめる。葉月は葉琉と話せただろうか。そんな事を考えていた。
そして、煙草を消し勢い良く立ち上がり、部屋を出た。
向かう先は捕らえられている元相棒のもとだった。階段を降り乍、如何してやろうかと考える。そして、繋がれた元相棒が目に映る。
「相変わらずの悪巧みかァ、太宰!」
太宰の表情が強張る。
「…その声は」
「こりゃ最高の眺めだ。百億の名画にも優るぜ」
「最悪。うわっ最悪」
「良い反応してくれるじゃないか。嬉しくて縊り殺したくなる」
太宰は何時もの小莫迦にするような笑みを浮かべた。
「前から疑問だったのだけど、その恥ずかしい帽子どこで買うの?」
中也は呆れたように返す。
「言ってろよ放浪者。いい年こいて、まだ自殺がどうとか云ってんだろどうせ」
「うん」
「否定する気配くらい見せろよ……だが、今や手前は悲しき虜囚。なけるなァ、太宰」
中也は太宰の髪を鷲掴みにし、自分の元へ引き寄せた。
「否、それを通り越して少し怪しいぜ。丁稚の芥川は騙せても俺は騙せねえ。何しろ俺は手前の元相棒だからな。
何をする積りだ」
太宰は中也の手を振りほどき顔を離した。
「君達は揃って私を疑う事に生き甲斐でもあるのかい?
見たまんまだよ。捕まって処刑待ち」
「あの太宰が不運と過怠で捕まる筈がねぇ。しかも葉琉も一緒にだ。そんな愚図なら俺がとっくに殺してる」
「考え過ぎだよ。ていうか君、何しに来たの?」
中也は太宰を睨みながら「嫌がらせだよ」と答えた。