第6章 時として望まぬとて
「おや。またお客さんかい?」
懐かしい、人を揶揄う様な話し方。
「先日ぶりですね、太宰さん」
芥川の仕業だろうか。拷問もしていないのに太宰の顔には殴られた痕があった。それでも薄い笑みを宿している。
「葉月ちゃん、躾がなってないんじゃないかい?一寸話しただけでコレだよ」
「あら。躾を怠ったのは太宰さんでしょう?」
「その後は君が引き継いだのだろう?」
「なら、躾通りですよ。裏切り者の太宰さん。それで…何を企んでいるんですか?」
葉月の質問に更に黒い笑みを浮かべる太宰。目元は笑っていない。
「企んでる?私がかい?」
「はい。太宰さんが態々、葉琉を危険に晒すわけ無いじゃないですか。只の情報集めならお一人で捕まるでしょう?」
「……本当にやり辛いよ、君は」
はぁ、と溜息を吐く太宰。葉月はにこにこと笑っていた。
「云っておきますが、私は情報を教えませんよ?太宰さんの予定通りの人から聞いてください」
「そこまで判っているのに、何しに来たの?」
呆れ顔で尋ねる太宰に葉月は真剣な表情に変わった。
「他に目的があるでしょう?それが判らない」
太宰はクスリと笑った。
「判らない?冗談だろ。君は判ろうとしていないだけだ。また失う心算かい?」
葉月は黙って俯いた。
「太宰さんは私を恨んでいますか?私は、自分で如何にか出来ないと判っていても、せめて太宰さんには伝えるべきだったと後悔しています」
「森さんに何を言われたかは判らないけど、君が考えていた事は可能性だ。最悪な可能性。君も確信は無かった。私もあの封筒を見るまでは同じだった。自分も止められなかった事で君を責める心算はないよ」