第6章 時として望まぬとて
ーその日の夜、鏡花が太宰と葉琉を捕らえたと報せが入った。
自宅にいた葉月は、中也に一報を入れて眠れない夜を過ごした。
ーー翌日、ポートマフィア本部ーー
葉月は重い瞼を擦り乍、執務室に入った。
「よォ、葉月。ンだよその寝惚けたツラは」
執務室の一番奥の机、昨日まで主人のいなかった机と椅子は、久しぶりにもかかわらず違和感なく主人を受け入れていた。
「…おはよう、中也。あれ?今日は午後から来るって聞いてたんだけど」
「そうも云ってられねェだろ」
中也は昨日の連絡を受けて予定を変更した様だった。
「葉月。葉琉には会ったのか?」
少し間が空いて首を横に振る。
「逢いに行かねェのか?」
「…逢っても何話していいのかわからない」
「悩むことねェだろ。手前らはたった二人の家族だ。怒ってンなら怒ってやればいい。寂しかったンならその気持ちを打つければいい。昔はお互いに打つけ合ってたじゃねェか」
葉月は驚いた様子で中也を見た。
「ンだよ」
「…中也って偶に善い事言うよね」
「あァ!?莫迦にしてンのか!」
「褒めてるんだよ」
「否!今のは褒めてねぇ!」
「褒めてるってば」
ふふっと葉月が笑うと、中也も一緒に笑っていた。
「有難う、中也」
「おう」
二人は通常業務を開始した。