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暗闇の蕾【文豪ストレイドッグス】

第5章 虎穴に入らずんば人虎を得ず


葉月はにっこりと男に笑い掛けている。男もにっこりと笑っている。その二つの笑みはまるで仮面の様に張り付いているようだった。

「相変わらず見事に隠れるね」

「否、貴方が現れた瞬間、動揺してしまうなんて私もまだまだですね。太宰さん」

二人は探り合う様な笑みを崩さない。
そんな二人を芥川と樋口はただ見ていた。踏み込んではいけない空気が漂っていた。
男…太宰は人虎に近付き屈みながら人虎の頰をぺちぺち叩いた。

「ほらほら起きなさい敦君。三人も負ぶって帰るの厭だよ私」

「ま、待ちなさい!生きて帰す訳には」

樋口は慌てて太宰に銃を向けた。
だが、それは芥川に止められる。

「止めろ樋口。お前では勝てぬ」

「芥川先輩!でも!」

「樋口ちゃん、収めなさい」

「…葉月さん」

樋口は大人しく銃を仕舞う。

「ゴホゴホッー太宰さん、今回は退きましょう。しかし、人虎の首は必ず僕らマフィアが頂く」

「なんで?」

「簡単な事。その人虎には闇市で七十億の懸賞金がかかっている」

「へぇ!それは景気のいい話だね」

「探偵社には孰れまた伺います。その時、素直に七十億を渡すなら善し。渡さぬなら…」

「戦争かい?探偵社と?良いねぇ元気で。やってみた給えよ……やれるものなら。私が探偵社にいるんだ。あの子も勿論、此方にいる」

太宰の表情は先刻までの飄々としたものから一変し、黒い笑みを浮かべていた。葉月の顔がピクリと反応する。それに気が付いたのは太宰と、芥川だけだった。

「貴方が私の前に現れる事が出来るということは……あの子は元気なんですね」

「うん、元気だよ」

葉月はそれ以上は何も聞かなかった。その顔は貼り付けた笑みではなく、心から安心した様な笑みを浮かべていた。芥川はその表情を見ないようにしていた。

「私達はこれで失礼します。次会うまでに良い返事を期待しています。……元ポートマフィアの太宰さん」

葉月はそう言うと身を翻し、歩き出した。その後に続く様に芥川、樋口も続いた。
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