第5章 虎穴に入らずんば人虎を得ず
暫く待つと担当者と思われる赤毛の少年と、学生と思われる少女、真面目風な眼鏡の男性、その男性とは対照的に軽薄そうな男性、そして標的となる人虎が現れた。
樋口はまじまじと五人を見る。少し視線が気になったのか赤毛の少年は少し気不味そうに切り出した。
「あの、えーと調査のご依頼だとか。それで…」
「美しい…睡蓮の花のごとき果敢なく、そして可憐なお嬢さんだ」
「へっ!?」
軽薄そうな男性がいきなり樋口の手を取り軟派を始めた。思わず変な声が漏れる。
「どうか私と心中していただけないだろ……」
バタンッーー
勢いよく探偵社の扉が開いた。そこには髪の毛を二つにまとめた少女が立っていた。
(あれ…?何処かで…)
樋口はその少女に既視感を覚えた。しかし、少女は凄い形相で樋口には目もくれず軽薄そうな男性に近づいて来た。
心なしか男性はガタガタと震えている。
「ねぇ、治ちゃん。私が楽しみにしてたプリン、食べた?」
「あ…いや…お、落ち着くんだ。話し合えば…!」
男は少女に首の後ろを掴まれて引きずられながら奥の部屋に入って行った。
「あ、済みません。忘れてください」
眼鏡の男性が何事も無かったかのように続きを促した。
樋口も何事も無かったように続きを話した。
「依頼と云うのはですね、我が社のビルヂングの裏手に、最近善からぬ輩が屯している様なんです」
「善からぬ輩ッていうと?」
「分かりません。ですが、襤褸をまとって日陰を歩き、聞き慣れない異国語を話す者もいるとか。無法の輩だという証拠さえあれは軍警に掛け合えます。ですから…」
「現場を張って証拠を掴めか…」
眼鏡の男性が少し考えてから人虎に声をかける。
「小僧、お前が行け」
「ヘッ!?」
「ただ見張るだけだ。初仕事には丁度良い。谷崎、一緒に行ってやれ」
「兄様が行くならナオミもついて行きますわぁ」
(…作戦通り)
眼鏡の男性は葉月の立てた作戦通り、人虎を任務に出した。勿論、彼が出来るであろう任務を依頼している。戦闘向きでは無い付き添いが一人や二人増えたのも予想の範囲内だった。
その後、準備を終えた三名の探偵社員と一緒に目的の場所は向かった。