第5章 虎穴に入らずんば人虎を得ず
ーーポートマフィア本部最上階ーー
「お帰り、葉月ちゃん。長期出張は楽しめたかね?」
不敵な笑みを浮かべ乍、ポートマフィア首領森鴎外は尋ねた。
「はい。とても実りのあるものでした」
葉月の返答に満足気に笑みを浮かべている。
「まだ君を失う訳にはいかないからねえ。あまり無理をしないで欲しいものだ。ところで葉月ちゃん、芥川君と組むのは久しぶりだけど出来そうかい?」
「はい。問題有りません」
「宜しい。何も無ければそのまま芥川君と人虎探しをしてくれ給え」
「畏まりました」
葉月は恭しく一礼をして首領の執務室を後にした。
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その報せは芥川君との打ち合わせ中に届いた。
「芥川先輩!人虎が発見されました!」
走って来たのだろう。息を切らしながら樋口ちゃんが飛び込んで来た。
「五月蝿い、樋口。打ち合わせ中だ」
「否、待って芥川君。結構大事な連絡だと思うよ。それで樋口ちゃん、その人虎は何処に居たの?」
「昨晩、武装探偵社が捕らえたとの情報です。今は武装探偵社が匿っていると思われます」
武装探偵社。噂には聞いた事があった。何でも、荒事を中心に引き受ける武装集団。その多くが異能力を持っているとされている。
樋口ちゃんの言葉を聞いて芥川が立ち上がった。
「芥川君、何処行くの?」
「僕はただ任務を熟すだけ」
「はい、ストップ。芥川君ストップだよ。樋口ちゃんも便乗しない。銃は仕舞ってね」
今にも部屋を飛び出し、武装探偵社に突入しそうな芥川君と樋口ちゃんを口頭で制した。
「何故です、葉月さん。探偵社如き僕が…」
「相手は異能集団よ。多勢に無勢、大人数を相手にすると流石に不利だよ。被害は出来るだけ抑えたいの」
芥川君は渋々席に戻った。樋口ちゃんも銃を仕舞った。