第5章 虎穴に入らずんば人虎を得ず
ヨコハマに戻って来た葉月は、迎えに来てくれていた人物と合流した。
「お迎え有難う。樋口ちゃん」
迎えに来てくれていたのは樋口一葉。首領直轄遊撃部隊長芥川君の部下である。そして、葉月の友人でもある。
「お疲れ様です、葉月さん。お荷物お持ち致します」
「大丈夫だよ。それに、いまは他に誰も居ないんだし何時も通りでいいよ」
「そう云う訳には…任務ですので」
樋口は少し困った様子だったため、これ以上の無理強いはしなかった。二人はそのまま車へ移動し、樋口は後部座席の扉を開けてくれた。車の後部座席には先客がいた。
「お疲れ様です、葉月さん」
「お疲れ様、芥川君。お迎え有難うね」
優しく笑い掛けると「いえ…」と短い返事が聞こえた。樋口が助手席に乗り込むと車はポートマフィア本部に向けて発車した。
「それで、次の任務についてなんだけど…」
何も発さない芥川に変わり切り出す。
「どう云う事か教えて貰っていいかな?」
「その人虎は闇市で70億の懸賞金が掛かっています。決して少なくない額です。その人虎を捕らえるのが今回の任務です」
「凄い簡潔に有難う。で、その人虎って異能力の類なの?あと、居場所は掴めてるの?」
この質問には樋口が答えてくれた。
「はい。異能力と伺っています。それと、幾つか目撃情報が上がっていまして、区の災害指定猛獣にもなっています。我々以外にも人虎を探している連中も多いと思われます」
「つまり、争奪戦ってわけね」
「葉月さん」
黙って聞いていた芥川が口を挟んだ。
「手出し無用です。この任務は僕が行います」
「そう云う訳にもいかないよね。私も首領からの命令で動いてるわけだし。…それとも、命令に従えない?」
少し雰囲気の変わった葉月の声色に、芥川はゆっくりと葉月を見た。葉月は冷めた目で芥川を見ていた。
「………否、そう云う訳では…」
「はい、この話はここまで。まだ何か云いたい事があるなら後で聞くよ。
樋口ちゃん、その人虎の詳しい資料あるかな?」
芥川君はそれ以上何も発さなかった。葉月も樋口から受け取った資料に目を通す。本部に着くまで車内は沈黙に包まれていた。