第9章 【刀剣乱舞✕東京喰種】よだれ塗れの刀剣は主がお好き
僕らの主は人間じゃない。
人間の血肉を喰らい食物連鎖の頂点に坐す、喰種(ぐーる)、という亜人種だそうだ。
見た目に人間との差異はなく、内に秘めたる力を解放したときその本領を発揮する。
歴史修正主義者達や検非違使達と闘う姿は赤く煌めいて美しく、まるで風を讃える舞を舞っているかのよう。
そんな勇ましく猛だけしい主だが少々、いや、かなり問題を抱えている。
「これ何て読むの、ぽんきち」
「またですか跡武(あとむ)様!ぽんきちではございません!こんのすけでございます!!」
「え?ぽんのすけ?」
「こ・ん・の・す・け!」
「うーん、ぽこ太でいい?」
「ムキィィィィィィィ!!」
漢字は読めないし、説明のほとんどが擬音語ばかりで伝わりづらい。
覚える気はあるのだろうが、如何せん記憶力が低い。
こんのすけとの押し問答も見慣れた光景となりつつある。
覚えない主もどうかと思うが、未だ諦めないこんのすけもなかなかだ。
そんな“人間の常識的”には劣る彼女だが、他の審神者よりもいっとう強い。霊力、そして筋力が。
人外であるが故に、喰種であるが故に。
本来守らなければならない立場なのは此方なのに、僕らの敬愛する主は大人しく守られてはくれない。
最前線でその力を余すことなく奮う。
だからこそ、その彼女の強さに惹かれ憧れる。
それでも多少の恐怖を感じることはある。
けどそれだけだ。
“怖い”だけ、“恐ろしい”だけで、彼女より賢く真っ当な“人間”の審神者に変えて欲しいなんて思わない。
彼女ほど僕らを大切にしてくれるヒトはいないと確信しているから。
とはいえ。
彼女に選ばれ顕現された当初は、半信半疑でこんのすけの話を聞いていた。
人喰いなどというおぞましい生き物が本当に実在するのか?
それもただ喰らうだけでなく霊力を持つ人間を喰い、その霊力をものにする?
背中から赤黒い蛇のような何かを生やし、それをもって戦うだと?
“それ”が新しい我が主の事だと?
主の侮辱にすら聞こえるその話は、法螺話にしては出来すぎていた。
が、半強制的に幾度も目にしてしまえばそんな疑問は吹き飛んだ。
今では日常の一部で、それなくして主は存在し得ないと知っている。この事に新たに本丸へ顕現される刀剣男士は最初こそ驚くが、すぐに受け入れた。