第3章 祭りの夜に(黒尾鉄朗/単発)
好きな人がいる。
告白をする勇気は無いけれど、傍に居れれば、それだけで幸せだ。
だけど、その幸せは、今回の合同合宿で、呆気無く奪われた。
「黒尾くん、はい、ドリンク。」
「いや、うちのマネがやっから、アンタは自分トコの仕事やれよ。」
「うち、休憩中だから。ほら、音駒のマネちゃん、まだ経験浅くて大変でしょ?だから、手伝いに来たの。」
他校の、マネージャーさんによって。
見るからに、黒尾さんに話し掛けたいだけなのが分かる。
でも、それを邪魔するなんて私には出来ない。
嫌な気持ちを抱えたまま、自分の仕事をしていたけど、黒尾さんとその人が気になって仕方が無くて。
よそ見をしていたから、ドリンクの粉の比率を間違えたり、洗濯物に洗剤を入れすぎたり。
沢山の失敗をした。
「お前、疲れてんじゃね?」
「あ、いえ。そんな事ないです。ただ、合宿初めてなので、慣れなくって…。失敗ばかりして、すみません。」
「…そ?じゃ、もうちょいだから、頑張れよ。後でご褒美やるから。」
そんな私に気付いて、黒尾さんが声を掛けてくれる。
こういう、然り気無い優しさが本当に嬉しい。
話し掛けてくれるだけで、私の世界ではご褒美です。
我ながら単純だとは思うけど、これだけで元気を取り戻して、1日の作業を終えた。
そして、黒尾さんが用意してくれてた、本当のご褒美は…。
「…お祭り、ですか?」
「そ。この近くでやるんだよ。…で、行くなっつっても抜け出す奴等居るから、門限伸ばして、外出オッケーだと。一緒にどうだ?」
まさかの、デートのお誘いでした。