第2章 ***
「やっぱ引くよね?…無理して中に入る必要ないから…」
「ううん、そんな事ない…。そりゃ…ちょっとはびっくりしたけど…」
俺に視線を戻した麻衣ちゃんがふんわり笑ってこちらを見上げてくる。
「和希くん、大学に通いながらちゃんとバイトもして自立してるんだもん…そういうところホントにすごいなって尊敬してるし…」
「麻衣ちゃん…」
彼女の言葉にひどく感動した。
俺の事、そんな風に思ってくれてたなんて…
「あ、じゃあ…せっかくだし……一応中も見てく?」
「うん、お邪魔します」
そう言う麻衣ちゃんの手を引いて軋む階段を上っていく。
するとちょうど2階から下りてくる人影が見えた。
「っ…」
人影の正体は城山…いつものように地味な格好をしていたが、彼女は今からどこかへ出掛けるようで。
「……、」
毎夜の事を思い出し、罪悪感と妙な興奮が入り交じり複雑な気分になる。
俺は挨拶をしなかったが、麻衣ちゃんは律儀にぺこりと小さくお辞儀をした。
「……ふ」
その時城山が一瞬口元に笑みを浮かべたような気がしたが、その顔をまともに見る勇気もなくさっさと自分の部屋へ向かう。
ふわっと漂う彼女の残り香に不覚にもドキリとしてしまった。
「…綺麗な人だね」
城山が去った後、ふとそんな事を呟く麻衣ちゃん。
「えっ……綺麗って…今すれ違った人の事?」
「うん…眼鏡掛けてたから目元はよく見えなかったけど……肌が白くて綺麗で…それにイイ匂いがして…大人の女性って感じだった」
「………」
麻衣ちゃんて目悪かったっけ…?
確かに肌の白さは認めよう(毎晩見てるし)。
スタイルもまぁ…イイ(胸デカイし)。
でもあの野暮ったい格好を見て「綺麗」というのはどうだろう…
それとも、男の俺と女の麻衣ちゃんでは感覚が違うのだろうか?
「和希くん、あの人と話した事ある?」
「挨拶くらいはした事あるけど…あの人見た目通り暗いっていうか、ろくに返事もしないしなんか気味悪くてさ」
「へぇ…」
「…何?」
「…浮気しないでね?」
「っ…」
麻衣ちゃんのその言葉に思わず噎せてしまいそうになった。
あんな女と浮気!?無い無い!ありえない!
(いや、毎晩オカズにはしてるけど…)
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