第1章 お兄ちゃんと呼ばないで/hr
彼はようやく安心してくれたみたいで、いつものふわふわした無邪気な笑顔を浮かべる。そして突然、私の手をぐいっと引っ張った。強制的に私の身体は彼の腕の中へすっぽり収まって、私の大好きな温もりに、全身を包み込まれる。
「俺も、夢子ちゃんのことだいすき。あのね、一目惚れでした、付き合ってください!」
「わ、わっ、ああああのッ、ヒラさん!? こ、ここ、まだお店の前ですから、通行人の方とか店から出てきた人たちに見られてます!!」
「そんなことは今どうでもいいの。ねえ、返事は? だめなの?」
「だッ……だめじゃ、ないです……」
「わあい、やったー!」
これからは晴れて恋人同士だねー、と私をその腕にぎゅうぎゅう抱き締めたまま無邪気にはしゃぐヒラさん。
ああ、周りの通り過ぎていく人々の目が生暖かくてつらい。でもこの瞬間、最高に幸せだから、いいのかなあ……えへへ……。
「ねえねえ、ヒラさん、じゃなくて名前で呼んでよ。悠太って呼んでー?」
「そ、それはいきなり難易度高いです」
「ふーん。……じゃあ、このまま離してあげないからね」
「えええ!?」
こうして私の大好きな優しいお兄ちゃんは、ちょっと意地悪な恋人さんになりました。
-了-